【コミック2位】『地獄行きバス』明治カナ子【アリス】

地獄行きバス (バンブー・コミックス 麗人セレクション)地獄行きバス (バンブー・コミックス 麗人セレクション)
明治カナ子

竹書房 2010-06-26


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「6月に同僚と結婚する」。同棲中の恋人・修にそうやってわかれを切り出されたカンちゃん。別れたあともカンちゃんの事が好きだから付き合おう、という修。別れたってどこまでも追い続けるという彼がきっぱり別れる条件として提示したのは、二人きりで温泉旅行に一週間いくことだった。カンちゃんはしぶしぶそれを承諾するけれど、実は結婚するという修のことは嘘だった。そんな嘘をついたのには訳があって…。
明治カナ子の漫画というとどちらかというと表題作の『地獄行きバス』のような、恋人二人がらぶらぶと過ごす話ではなくて、『夜の女王』のようなミステリアスでカゴメカゴメの輪の中で誰かが裏切りを行っているような感じが主流だと想う。けれどもこの『地獄行きバス』のふたりも、とても「明治カナ子らしい」ふたりであした。
人間関係の絶妙な力学も明治カナ子の得意とするところ。そういった意味では、もうすでに恋人同士となっている二人は、揺るぎのない関係性を築いていると言えます。安定した関係のうえで何を見せるかといえば、ふたりのささいなエピソード。そのエピソードの作りがまた上手い。その根底にあるのは、キャラクターの造形の巧みさ。
関係性・エピソード・心情表現、その全ての根幹をなしているキャラクター造形。それは決して派手なものではない。こういた萌え要素がある、という造形ではなく、もっと根本的な造形がしっかりと組まれています。たとえば、生きてきたうえでそのキャラクターの核となってきたような印象的な挿話。それはあからさまにキャラの性格に反映されるのではない。そこに劇的なトラウマ回があるわけではないのですが、読者にだけ示されるその挿話(作中にあからさまにされるのではない、つまり他のキャラが知るわけではない。この話の場合ではカンちゃんは知らない)が、そこに繋がる性格を表層的な理解で終わらせない深みを持つ物としてきいてきます。
もちろん深みが生まれてくるのはそれだけではないのですが、この作品で一番光部分としてあげられるのが、その創造性。『夜の女王』でも同様に、どうしてこう物語が展開したのかという伏流となるエピソードが上手く活かされています。そういった巧みさだけならば『夜の女王』が優れていますが、『地獄行きバス』ではそのうえにそのキャラクターの造形や心情表現が一層映えているのを評価したいです。シリーズとして今もこの二人の話が続いているというので、今後どういった話を展開していってくれるのか楽しみです。