【コミック3位】『リヒテンシュタイン博士の華麗なる日常』真行寺ツミコ【砂糖】

リヒテンシュタイン博士の華麗なる日常 (ディアプラス・コミックス) (ディアプラスコミックス)リヒテンシュタイン博士の華麗なる日常 (ディアプラス・コミックス) (ディアプラスコミックス)
真行寺 ツミコ

新書館 2010-06-30


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2010年一番笑った。まず、帯がすごい。表紙の肌色率は低く、手に取りやすいのだが、帯には普通にぷりんとした生尻が描かれている。それにめげずに購入し、扉絵を見ればやはり尻。本編も痴漢、診療プレイ、触手、家畜プレイ…とにかくエロとナンセンスのフルコース。お腹いっぱいになる内容を、無理になりすぎず食傷させすぎず笑える範囲で成り立たせているのは、ひとえに世間知らずなドMというリヒテンシュタイン博士の人物造形だ。世界的なバイオテクノロジー企業の社長であり、才色兼備で家柄も最上級のリヒテンシュタイン博士は、俗世間にまみれずに育ったために、電車の乗り方すら分からないまま(そしてもちろん童貞のまま)中年となってしまった。そんな博士に研究者として憧れ、会社に入社したシュミーアくん。博士の成人としてのダメっぷりを知った彼の感情は特異な方向へ捻じ曲がる。彼は博士の世間知らずとドM気質につけ込んで、ドSな所業をしまくるのであった。
電車で、医務室で、空港で、無人島で。シュミーアくんは手を変え品を変えドSな悪戯をリヒテンシュタイン博士に仕掛けていく。彼は博士に正体を明かさない。あくまで謎の人物として博士に迫り、日常のなかでは優しくて紳士的なシュミーアくんとして振る舞い続けるのである。博士は並外れたIQを持ちながらも、前述のごとく純粋培養の世間知らずかつドMであるので、一向に自分を襲う謎の人物の正体に気づかない。名も知らぬ者に襲われているという事実がドMな博士をより興奮させ、ひいてはドSな自分を興奮させるからこそ、シュミーアくんは正体を黙っているのだ。散々突っ込まれているのに陵辱者の正体が分からずに紳士シュミーアくんの登場に安堵している博士のアホの子っぷりに萌えるもよし、シュミーアくんが器用に出し入れしている二つの顔のギャップに萌えるもよし。その二つが作品のエロさと面白さを倍加させる要素でもある。
もっとも、『エンド・オブ・ザ・ワールド』で天才の孤独をしっとりと描きあげた真行寺ツミコだけあって、単なるエロでは終らない。シュミーアくんにとっての博士も、博士にとってのシュミーアくんも、性欲の対象にとどまる存在ではない。それでもシュミーアくんが正体を最後の最後まで明かさないのは、もちろんドSプレイを楽しみたかった訳だが、シュミーアくんはシュミーアくんで臆病だったからでもあるだろう。博士が彼への好意をたどたどしいながらも口にしたことによって、シュミーアくんもやっと優しいキスを博士に贈ることができたのだと思う。大胆プレイ満載のコメディは、臆病な二人のちいさな恋の物語だったのだともいえるのではないだろうか。