【コミック3位】『ティアドロップ』麻生ミツ晃【ウサギ】

ティアドロップ (ショコラコミックス)ティアドロップ (ショコラコミックス)
麻生 ミツ晃

心交社 2010-09-30


Amazonで詳しく見る

出会い系で知り会った大学生・木戸悠介と会計士の神山剛毅。傷付くことに怯え、遊びだけの割り切った関係を求める悠介に応え、距離を取った大人の関係を築いていく剛毅。だが、その優しさと大人の魅力に惹かれた悠介は、自分から求めた関係にもどかしさを感じ始める。やがて、本当の恋人同士として付き合い始める二人。でも、悠介には剛毅が自分と付き合っている理由が分からなくて……。
独特の透明感のある絵が魅力的な作品。白黒の陰影が強調された繊細で硬質な絵と、対照的に擬音語や書き文字、モノローグを極限まで排除したすっきりとした画面、緻密な背景、随所で挿入される風景コマと表情コマ、その全てが独特の間と透明感を演出している。登場人物の苦しむ表情、喜ぶ表情、戸惑う表情、全てが印象的で、ちょっとしたシーンからも込められた感情が伝わってくる。
登場人物がものすごく魅力的、というわけではない。むしろありきたり。シチュエーションもすごく普通。割り切った関係という約束で付き合い始めた二人が本当の恋人同士になって、お互いの気持ちに悩んで、少しずつ認め合って、成長して行く。それだけの物語なのに、ぐっと心に迫るものがある。
前半は、未熟な悠介が理想的な恋人を手に入れ幸せを手に入れる物語だ。恋に臆病だった悠介が、幸せな恋で許され癒されていく。だが後半、悠介の我侭を受け入れ、彼に優しさを与え続けてきた剛毅の方が、実は悠介の存在に救われていたことが分かる。悠介との出会いによって変わった自分を喜んでいた剛毅は、しかしその気持ちと傍にいて欲しいという想いを伝える手段を、自分が持っていないことに気付く。大きな優しさを示していた剛毅だが、実は自分の意思を主張する、我を張るということをできない人間だったのだ。
恋愛というのは究極的にエゴイスティックな関係だ。遊びだけの関係で居たい、好きだから本当の恋人になりたい、恋人だから我侭を言いたい、聞いて欲しい、恋人だから我侭を言って欲しい、聞きたい。そんな当たり前のことをぶつけてくる悠介を好ましく思いながら、剛毅は自分に欠けていたものに気付き始める。どんな人間も完璧ではない、けれど少しずつ変わることが出来る。そんな当たり前のことを、とつとつと語りかけてくるような作品だ。作中で示される緩やかな時間経過が、人物の変化に更に説得力を持たせている。
同時収録の「僕らの言い分」は大学生の友人同士の恋。なんとなく自覚をしてはいても、踏み出せないもどかしさが上手く表現されている。

関連作品

ティアドロップティアドロップ
イメージ・アルバム 代永翼 佐藤雄大 森川智之 川田紳司 川原慶久

フィフスアベニュー 2011-03-25


Amazonで詳しく見る
楽天で詳しく見る