【コミック5位】『人に言えない間柄』ユキムラ【アリス】

人に言えない間柄 (キャラコミックス)人に言えない間柄 (キャラコミックス)
ユキムラ

徳間書店 2010-03-25


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男子高校生の憲介は恋がしたかった。彼は出会い系のサイトをつうじて20歳だと言うみちるさんとであう。身体の相性もばっちりで、何度も会ううちに、憲介は本当は男子高校生でみちるのつとめている学校の生徒だというのをばらし、恋を始めたくなった。みちるさんはかわいいしエッチだし甘え上手だし、そんなみちるさんのことが好きになった憲介。全てを打ち明けて恋人に…そう悩む憲介に先んじて、みちるさんがサバを読んでいることも本当の職業も打ち明けてきた。自然本当のことを話さざる得なくなった憲介だったが、それを聞いてみちるは別れると言い始めた。学校であっても教師の仮面を被って、憲介の話を聞いてくれないみちるさん。憲介は名前を呼ぶと胸がキュンとするような恋を成就することができるのか。
表題作の「井上の場合」のストーリーというか設定はとてもベタでありきたいなもの。しかしそのなかにあって、(多分)みちるさんに恋した憲介から視点のみちるさんの表情は魅力的です。先生の仮面を被って眼鏡をかけたみちるさんの表情はちょっとよそよそしいのですが、ひとたび憲介と向かい合い恋する男となったならば、その切なげな表情や泣きそうな表情や満足げな表情はかわいらしいキュンとさせるような顔です。
一方「山田の場合」の方は、再婚して兄弟になった兄に思いを寄せてしまい、恋すらもさせてもらえない憲介の友人山田のお話。兄はエロ漫画家で、両親が再婚した山田の小さなときからずっと、家族として愛情を傾けてきてくれた。そんな兄を思うと、自分の恋情はないものとして考えなければいけない、憲介のように恋などできない、失恋できるのさえうらやましい、そう想っていたのだが。母親が離婚をすると言い始め、そのことを一瞬うれしがってしまったことを、兄に恋をしていることを口走ってしまった山田は「失恋」だけはできることができた。「井上の場合」で表情がしっかり書かれていたのに大して、こちらの作品では切ない山田の心情が、じっくりと描かれています。
ユキムラさんの作品は、どれをとっても恋をする心情と表情が活き活きとしています。そこがなによりも強みで魅力的な漫画家さんです。もちろん設定の面白や独特のタッチの絵柄も魅力のひとつでもあります。けれどもこの作品ではなにより、そのキャラクターの表情がひときわ豊かに書かれていて、見るものを惹きつける力があります。それこそ恋する人間フィルターとでも言うべきでしょうか、惚れた欲目ってやつです。「名前を呼ぶだけでキュンとするような」恋とやらを、どうぞご堪能あれ。