【コミック6位】『博士の創りし犬』DUOBRAND【アリス】

博士の創りし犬 上巻 (オークラコミックス)博士の創りし犬 上巻 (オークラコミックス)
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オークラ出版 2010-07-12


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キメラとは、人によって作り出された存在。自らの意思を持たずに人に隷属し、奉仕をするモノ。その姿は獣の耳と尻尾をもち、隷属の証として首輪をはめられている。
そのキメラを作り出す研究をしている月世は、キメラ研究に関わることに限界を感じていた。意思をもたないキメラのようなものを作成することに、そしてそのことで「博士」と呼ばれていることに。部屋に侍らせたキメラの草薙に命じ、彼に自分を抱かせる代償行為を夜毎繰り返す。草薙のもつ顔はかつての恩師であり飼い主であった男の顔。草薙はキメラであるはずなのに、時折意思をもっているようかに振る舞う。そして月世の逃げ出したいという言葉に草薙は応えてみせる。ここから私を奪って逃げろ、その言葉に従い、草薙と月世の逃亡劇が始まった。研究所の追っ手それから、月世がかつて従っていた師の影がちらつくなか、二人の逃亡劇が展開される。
上下巻のコミックで、中身は基本的に甘々です。しかしそれなりに過去の因縁などがあって、なかなかの読み応えがあります。物語としての楽しさというものがあるお話だと想いました。一枚の絵から想起されたという世界観は、作者の創造力から展開されたものです。その広がりは話が進むにつれて、徐々に明らかになっていき、物語の豊かさに続いていっています。
キメラというひとの創りしモノというテーマは個人的に興味深いものです。しかしこの話では、結局キメラという全体像についての解決はなされておらず、草薙という特別な意思をもつキメラだけがひとつの結末にたどり着きます。そういった大きな流れについては少し物足りなさを感じました。月世がどのような研究の可能性をもっていたのかは、わかりませんが結局は愛を知ったキメラがその意思を目覚めさせた奇跡というものが描かれるのです。それはキメラという設定を活かし切れていないように思えます。
ただ「この世において唯一つの大切なひと」=恋人というルールの上でしたらとても良くできたお話でしょう。意思をもたないニンギョウに意思が芽生えるという奇跡、そして全てのしがらみを振り払って逃走して、相手だけをみつめていられる場所へ逃げ延びる。ふたりをこれから待っているのは、甘い甘い恋人生活。全ての困難を乗り切り、ふたりで暮らしていく、それは理想的な恋人同士の姿であろう。その点では良くできたストーリー、でも有る点では物足りなさを感じた話でした。