【小説1位】『恋愛革命』海賀卓子(葛西リカコ)【砂糖】

恋愛革命 (ショコラノベルス)恋愛革命 (ショコラノベルス)
海賀 卓子
葛西 リカコ

心交社 2010-08-10


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基本的に精神的に痛いBLを好んで読む人間なのですが、これまで感じたことのない種類の痛みを覚えた作品。
 
貧乏学生の虎之介は、バイト先の喫茶店で派手な別れ話をしていた会計士の坂口瑞希からバイトの依頼をされる。そのバイトとは、「日中瑞希のプライベート用の携帯電話を預かること」だった。出会いの日に泥酔されてさんざんな目に遭わされていた上、自分につきまとってくる同級生の兄でもある瑞希に関わりたくない虎之介。苦学生ゆえにバイト内容の美味しさに抗えずしぶしぶ引き受けたのだが、次第に瑞希に惹かれて行く。

タイトルの語感から何となく読むのを渋っていたのだが、挿絵に惹かれて読んで正解だった。ただ直球に「最初は嫌いなところばかりだと思っていたのに、いつの間にか好きになっていた!」というような単純なストーリーは展開されない。虎之介は瑞希の他人を信用していない所や小馬鹿にしている所、自分が一番素晴らしいと思っている所、そのくせ自分の彼女を奪った親友を信頼し続けている所、彼女からの電話に自分では出られない所などに当初は心底うんざりしている。しかし、瑞希の奥底を覗いて行くうちに、それらの点にひどく愛しさを抱いて行くようになる。にもかかわらず、今度は虎之介が、自身の嫉妬や不安のあまりに瑞希に辛くあたる。

「嫌な奴」が「好きな人」に変わることは、素敵なことだけれど、その分自分が「嫌な奴」になっていく…というのは、まさしく大富豪における「革命」のごとき、恋愛の一側面。けれど、その「恋愛」の限界や自分のエゴに気づいたとき、気づいて咀嚼して、なお相手への気持ちを抱いているとき、本当に相手と向き合うことができる。それこそが、海賀さんの描きたかった「革命」なのだと思う。最初は分別わきまえた年下攻めのように思える虎之介はどんどん聞き分けのない子供になっていくし、手に負えない女王受けのように描かれていた瑞希は、虎之介を第一に考え本心を押し込める大人としての側面を強く見せてくる。正直タイトルで損をしているような気もするのだが、その点、本の内容をうまく表しているともいえる。
とにかくこの物語は徹頭徹尾虎之介と瑞希の内面のぶつかり合いである。それゆえ、瑞希は会計士という専門職にあるが職業的な描写はさほどないし、瑞希の妹という「女性」が物語の進行にかなり介在してくる点であまり全力で薦める類の作品ではない。しかし、じわじわと内出血しているような鈍痛は、何度でも読み返したくなる中毒性を有している。