【小説1位】『愛の巣へ落ちろ!』樋口美沙緒(街子マドカ)【アリス】

愛の巣へ落ちろ! (白泉社花丸文庫)愛の巣へ落ちろ! (白泉社花丸文庫)
樋口 美沙緒
街子 マドカ

白泉社 2010-04-20


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今年一番勢いがでてきた(と勝手に想っている)作家さんをあげるなら、断然樋口美沙緒さんです。この本は正直絵師さんに釣られて買ったのですが、その後でた『八月七日を探して』もなかなかの出来でした。
昆虫と人間の融合したひとびとの暮らす世界。大型昆虫や肉食昆虫をもととしたハイクラス種と、捕食される小型の昆虫をもととしたロウクラス種がいる。シジミチョウを元としたロウクラス種の翼は、ハイクラス種で名家の生徒ばかりが通う全寮制の学園へと入学する。身体に変異をもっている翼は、身体が弱くいつもベッドで伏せっていた。その時にテレビで見かけ、翼の心を強く揺さぶる言葉をくれた、憧れのタランチュラ出身の澄也に憧れていたのだ。しかし実際にあってみたは傲慢で、性的にルーズで翼をシジミチョウ出身の人間だということで嫌いだと宣う。しかしある夜間違って澄也の部屋に脚を踏み入れてしまった翼。そこは澄也が巣を張っている場所で、問答無用で食べられてしまう。澄也の異常なまでの執着心は唯の獲物だからと言うだけなのか。
あらすじでは「虫の擬人化BL」とありますが、本当のところはちょっとSFチックな設定の唯の擬人化BLではありません。人間達が生存の危機に瀕したとき、虫と同化することで絶滅を回避しようとした、と読めるところがでてきます。この基本的な設定に関しては頭から最後まで、そこしか説明がなくて、どうしようもなく説明不足なのですが、そこから読み取れるのはこの話が将来の地球を舞台にしたということ。そして虫と同化した人間達は、ロウクラス種のものたちがその出身種族のか弱さから存在の存続を危惧されたが、ハイクラス種はそのもとからあった食物連鎖の過程の中から、彼らの保護の必要性を遺伝子レベルですり込まれていた。澄也も同様に翼に酷いことをするものも、翼のシジミチョウ出身の体質として澄也を誘惑する匂いを発しているのだ。澄也が付ける蜘蛛の媚毒の匂いも、食べた人間に澄也の匂いをマーキングするものだ。そういったところにも細かく設定が刻まれていて、その創意が読む物をひきつける魅力をもっている。また翼の性モザイクの秘密も、上手く物語にアクセントを持たせる重要な設定となっている。昆虫である証の翅に表れるその性モザイクの証は、翼の秘密を上手く隠しつつも現している。唯の擬人化だけでは終わらせない設定のうまさ、これが今年一番気に入った物語です。
続編が読みたい!一巻で終わらせるにはもったいない設定過ぎるのです。説明不足を解消できればもっと良い話になると勝手に次回作を待ち望んで居ます。

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高久 尚子

徳間書店 2010-07-27


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