【小説2位】『束縛の呪文』夜光花(香坂あきほ)【砂糖】

束縛の呪文 (キャラ文庫)束縛の呪文 (キャラ文庫)
夜光花
香坂あきほ

徳間書店 2010-09-25


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今年個人的にヒットが多かった夜光花作品の中でも、最も琴線に触れた一冊。
「束縛の呪文」というタイトル、帯の「おまえが俺を置いて出て行くなら監禁して縛りつけてやる!」という煽り文句、表紙絵の二人に絡みつく鎖、受の頭を鷲掴みにしている攻。まず間違いなく執着愛だと分かる作品である。
世界的に有名なカメラマンのアシスタントを務め、フランスに暮らしている喬一。大学卒業と同時に現在の道に入った喬一はめったに日本に帰らない。しかし、日本には、高校時代の同級生であり、喬一に執着し続ける俳優の義隆だ。かつては恋人であった二人。しかし、義隆の姉・幸恵が喬一と肉体関係を持ち妊娠したことを義隆が知って修羅場となって以降、二人の仲はぎくしゃくしている。今は何とも形容しがたい関係のまま、喬一の帰国のたびに体を繋げている。姉と浮気した喬一に対する怒りを抑えられずに乱暴な行動に走りながらも、喬一への執着を止められない義隆。一方の喬一は義隆をなだめすかしつつ、のらりくらりと真意を見せない。そんな喬一に対してますます複雑な思いを高まらせていく義隆だったが、結婚が決まった幸恵の口から思わぬ真相を告げられる。「喬一はレイプされて妊娠した自分を庇って嘘を吐き、今まで黙ってくれていたのだ」と。
ここまでは、非常にすんなりと理解ができ、外観からも予想できる範囲のあらすじである。義隆は喬一が自分を愛するがゆえに自分の姉を庇ったのだと理解し、二人の気持ちが通じ合ってフィナーレ、と締めても、まったく問題ない。監禁プレイもあったし、十分楽しめる作品だったな、と読者は満足できる。
しかしそこを裏切ってくれるあたりが夜光花。義隆が真実を知ったことに、喬一は動揺する。なぜならば、彼が幸恵を庇ったのは、幸恵のためでも義隆のためでもなかった。自分が義隆に完全には靡いていないと装うことで、移り気な義隆を自分に繋ぎ留めておくためだったのだ。物語の主旋律は攻の執着愛から受の執着愛へと転換する。最初は義隆をあまりに軽視しているのではないかとすら思われた喬一の飄々とした言動のひとつひとつが、義隆を飽きさせないための一生懸命な足掻きとして目に映るようになる。その鮮やかな手腕に惚れ惚れし、つい読み返してしまった。
やや惜しいのは、「束縛の呪文」「解放の呪文」の二本立てなのに、後者のラストでも喬一が本当の意味で「解放」されてはいないこと。もっとも、この二人にとってはこれも愛の形なのだと納得するのも一つの読み方なのかもしれない。