【小説2位】『タナトスの双子』和泉桂(高階佑)【アリス】

タナトスの双子 1912 (SHYノベルス)タナトスの双子 1912 (SHYノベルス)
和泉 桂
高階 佑

大洋図書 2009-12-17


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タナトスの双子 1917 (SHYノベルズ)タナトスの双子 1917 (SHYノベルズ)
和泉 桂
高階 佑

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双子というのは不思議な生き物だ。同じ二重螺旋の上に気付かれた違う人格。生まれてきたときから一緒に過ごしたという記憶。懐かしさは原始にまで及び、互いの存在は苦しみであると同時に歓びである。そんな双子の話。
双子として生をうけ、病弱な母をよく助け、愛らしい姿でひとびとに愛された兄弟。しかし兄弟はその血筋により、引き裂かれる。弟は父親へと引き取られる途中に事故に遭い生死不明となった。残された兄は最愛の片割れの死に涙しながらも、弟の代わりに引き取られることとなった。
ロシアの帝政が終わりを告げようとしていたそのころ、体制への反発が民衆運動として活発になっていた。そのなかで、民衆運動を行うものにとって恐れられていた軍人がいた。それが片割れ・ミーシャをなくしたユーリの姿だった。冷酷に運動家たちを弾圧するその姿は非情そのものだった。しかし彼がぬくもりを持って接する友人がいた。ユーリはその彼・マックスにある人物に引き合わされる。それはユーリと生き写しの姿を持つ、金色と青い瞳をした美しい青年、ミーシャだった。しかしミーシャは事故の後遺症で過去の記憶をもっておらず、現在は反体制側の人間として活動していた。美しい日々の記憶を語ってきかせるユーリに、その輝きに嫉妬したミーシャは、やがて憎しみを募らせる。ミーシャは己の持たざる過去に自分の居場所をみつけられないでいた。ミーシャはユーリから情報を引き出し運動の糧とし、ユーリはそれと知りながらもミーシャを警察の手から守っていた。
輝かしい最初の記憶は憎しみをミーシャに与えた。ミーシャはユーリから全てを奪うことを決意した。奪われたユーリは二度の喪失の果てに愛情を憎悪へと昇華させていくゆ。
双子というのは運命に翻弄される運命なのか。引き裂かれ巡り会い憎しみあい奪い合い、最後にもう一度巡り会ったときに憎悪嫉妬苦しみと輝き愛おしさの間にどんな結末をみるだろうか。
完成度の高い作品で、優れた時代設定と人物像、感情の描き方も見事とで、文学性があるとまでいっていいような硬質さがありました。唯,最後の決着のつけかたが、甘いと想わせるところがありました。結局それを掴んでしまうのはややご都合主義だと想えてしまう。そのエンディングは綺麗だけど、せっかくここまで高めてきたテンションをもっとより昇華できる選択もあったんではないかと想う。完成度が高いからこそ、より、という理想を求めてしまうけれど、そういった事も考えさせられる意欲作。