【小説3位】『愛の謎が解けたとき』斉藤まひる(竹美家らら)【砂糖】

愛の謎が解けたとき (幻冬舎ルチル文庫)愛の謎が解けたとき (幻冬舎ルチル文庫)
斉藤 まひる
竹美家 らら

幻冬舎コミックス 2010-08-18


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恋や愛が分からない情緒欠陥人間が、相手と出会って、感情に振り回されていく…というストーリーはBLには、(おそらく他のジャンルの作品であっても)よく見られる一形態だと思う。
本書もしかり。あらすじの言い方を踏襲すれば、板場にばかり張り付いて料理のことしか眼中になかった谷が、やり手実業家の北村に出会うことで、感情に振り回されていくという筋立てである。仕事一辺倒で、ゲイではあるが特にそのことで思い煩うこともなく、さまざまな相手とあとくされのない関係を重ねてきた谷。しかし、彼は職場の料亭で盗聴におよび、それが発覚して職を失う。その理由は、いつも同じ代議士と逢瀬を重ねる北村のことを知りたいゆえであった。
こんな風に書けば、「感情豊かな受に会って、愛を知っていく攻の話」と思うかもしれない。たしかに北村は感情豊かだ。マスコミの前では率なく振舞うのに、ささいなことで不機嫌になったり、我を張ったり、かと思えば、谷の料理ですぐに笑顔になったり。しかし、それは北村が伸びやかに育ったからではない。北村のくるくる変わる表情やいざというときの冷徹さは、酸いも甘いも知った結果というよりは、子どものまま育ってしまった無鉄砲さゆえであった。北村もやはり、愛を知らない人間だったのである。
先に愛に気づくのは谷の方である。盗聴がばれた谷は、北村の手によって樹海で葬られる危機に陥る。といっても、谷自身は愛というものを知ることができて、しかもその対象である北村自身に殺されるなら本望だ、とあっさり覚悟を決めているので、読者の方がおろおろしてしまうくらいの落ち着きよう。逆におろおろするのは北村の方で、樹海の死体を目の当たりにして谷にしがみついたりしてしまう。そこで、谷は北村の冷酷さが、子どもゆえの無知さに由来するということに気づき、死を甘受することを止める。そして、北村が愛を知り、独りで泣くこともできない子どもでいることから脱却できるように、谷自身の精一杯で北村を愛していく。
作者の斉藤まひるは、今回がBL初作品ということだが、他ジャンルの作家をしているせいか、なかなかBLの型にはまらない展開だった。
ただ一つ非常に惜しく、かつ読後感を減退させた点がある。それは表題作の後に収録された掌編「小悪魔の至福の楽しみ」の中で北村の名前が完全に間違っていること。表題作での満足感を殺がれたことが非常に残念だ。それでも、文のセンスや喘ぎの描き方に若干違和感を持つこともあったり自分の萌えと被る要素がなかったりしたにもかかわらず、次作品も読んでみたいと思わせる魅力を大いに評価したい。