【小説3位】『キス&クライから愛をこめて』小塚佳哉(須賀邦彦)【ウサギ】

キス&クライから愛をこめて―SIDE:KISS (ガッシュ文庫)キス&クライから愛をこめて―SIDE:KISS (ガッシュ文庫)
小塚 佳哉
須賀 邦彦

海王社 2010-01-09


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キス&クライから愛をこめて―SIDE:CRY (ガッシュ文庫)キス&クライから愛をこめて―SIDE:CRY (ガッシュ文庫)
小塚 佳哉
須賀 邦彦

海王社 2010-01-09


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二〇一〇年一月というすごいタイミングで発売された、バンクーバー・オリンピックを舞台にしたフィギュアものBL。職業ものの一種と捉えることもできるし、スポーツ選手ものとも言えるが、ここはあえて「フィギュアもの」と言いたい。それだけの密度のある作品。
主人公はオリンピック代表候補のフィギュアスケーター多岐川隼。スランプに陥り、代表の座を逃してしまう。しかし突然現れたファンだという極道にしか見えない男、天城に励まされ、フィギュアへの情熱を取り戻す。そしてオリンピック代表への補欠繰り上げが決まり、隼はバンクーバーへと旅立つ。
何と言っても白眉は密度の高いフィギュアスケート描写。現実のバンクーバーでも議論の的となった四回転に、主人公の得意技「イーグル」、エキシビションのアドリブ演技にバックフリップ、現行ルールにおける「飛びすぎ」規制、プログラム構成などなど、細部にフィギュアへの愛が感じられ、ついついニヤリとしてしまう。しかも最後には作中の試合のスコアシートまで添付されているという凝りよう。そして、緊迫のショートプログラムからフリーでの逆転劇という展開は、今から読み返すと神がかっているとさえ思える。やっぱり男子は四回転ですよっ! ここは完全に作者に同意。プルシェンコも高橋も頑張った! とかいいつつスケーティングとダンスで見せるお花ちゃんことジョニー・ウィアーなんかも大好きだし、黒騎士様の異名をとる大型スケーター(そのままの意味で)ライサチェクも…ってこれは現実のバンクーバーでした。
そんな主人公のモデルは現実に四回転に挑戦し、メダリストとなった高橋大輔よりは織田信成っぽい。でも容姿も合わせると期待の新星、小塚崇彦? などと推測するのも楽しいもの。
ストーリー全体を眺めてみれば、攻が極道属性である必要性に疑問は残るものの、ちょっとやんちゃな受を甘やかして育てる大人の攻という構図はやっぱり美味しいし、極道内の権力抗争と試合展開を絡め、最後のエキシビションでの一幕への流れはサスペンス風味たっぷりで十分読ませられます。
で、肝心の恋愛模様は、というとさすがにちょっと薄味。しかし主人公のフィギュアへの思いは自分の滑りを認めてくれた相手への恋情へと転換し、否が応にも盛り上がる。そんなところからもスケーターとしての主人公の情熱が感じられて素敵。
少しでもフィギュアに興味があるならば、必読。フィギュアに興味を持ってみたいひとも、必読。