【小説4位】『凍える月影』いとう由貴(朝南かつみ)【ウサギ】

凍える月影 (プラチナ文庫)凍える月影 (プラチナ文庫)
いとう由貴
朝南かつみ

フランス書院 2010-05-10


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時は室町時代。都から使者として縹国へやってきた美貌の僧侶、月永。国主・義康はその美貌と才気に魅せられ、やがて寵愛を注ぐようになる。しかし、その関係は月永の仕掛けた罠の第一歩にすぎなかった。母を死に追いやった前国主と正室である義康の母への復讐のため、そして幸せに生きてきた異母兄・義康からすべてを奪い闇に堕とすため、縹国自体の滅びを求める月永は、義康を溺れさせ、一方で縹国内部に叛乱の種を撒き始める。すべては上手くいっていたはずだった。だが義康の執着は月永が予想しなかった方向へと事態を変えていく。
なんといっても美坊主ですよ美坊主! 復讐に取り憑かれた坊主、月永の美貌。しっとりとした文章描写と朝南かつみのイラストがマッチしてなんとも言えない雰囲気を醸しだしています。後頭部から背中にかけてのラインが色っぽいというか淫靡というか……。文章からも匂い立つ色気が感じられます
そしてこの月永が己の色香「のみ」で陰謀を推し進めるというのがポイント。相手が男であろうと女であろうと、色香と美貌とそれによって醸しだされる迫力だけを武器に落としていくのです。もちろん、どんなに執念のこもった陰謀も、さすがに武器が色香だけでは限界があり、陰謀には穴が空きまくり。というか、基本的に月永が浅はかなんですよ。所詮は僧侶の世界でしか生きたことのない月永が全てを読みきれるわけもなく。そもそも、「国主の座を得て幸せに生きてきた」と月永が思い込んでいる義康からして、どう見たって幸せとは言い難い。それは、親の助けもなく、僧侶たちの慰み者となることで生きてきた月永と比べれば恵まれてはいても、それによって得られなかったものも確かにあって。でも、BLとしてはそれくらいでいいのです。むしろそのことが救いになっていとも言えます。
最終的には、義康から全てを奪おうとしていた月永は、義康が唯一得られなかったものを与える事になってしまい、月永は絶対的な愛を与えてくれる義康に逆に捕らわれて、ミイラ取りがミイラになってしまうわけですが。義兄弟の背徳愛とか、どう考えても障害というより燃え上がらせるスパイスにしかなってない……! でもそこがいい。と言いつつ、義康が陰謀にはまり堕ちていく展開とか、もしくはもっと黒く昏く月永に執着する監禁エンドとか、いっそデッドエンドとかも、見てみたかった気はしますが。
中世日本の雰囲気と坊主の色気、兄弟愛の背徳感とエロス、執着愛。そんな空気にどっぷり浸れる作品です。最後はハッピーエンドなのでドロドロしたのが苦手なひとも是非。全ては愛のスパイスです。