【小説4位】『薔薇の刻印』夜光花(奈良千春)【アリス】

薔薇の刻印 (SHYノベルス250)薔薇の刻印 (SHYノベルス250)
夜光 花
奈良 千春

大洋図書 2010-08-30


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相馬啓はある夢を見る。薔薇の咲き誇る美しい庭園で、長い金髪をゆるく結んだ美青年に薔薇を捧げられる。そして彼は抱きしめながらこういうのだ。「お前は俺の運命だ。俺のすべてをお前に捧げる」。
啓は考えてみると奇妙な家族関係の中で育った。父の友人だという文也、スコット、昇の血縁関係のない男四人の家族だ。四人は文也の仕事の都合でよくあちこちを転々として、今は片田舎に落ち着いている。。不思議な家族関係の中で育った啓だが、特に疑問は持たず普通に育ってきて、今は高校生をしている。
そんな中、学校へやってきたとある美術教師がいた。彼は眼鏡を掛けてはいたが啓の夢のなかに出てくる男にそっくりだった。マイケルと名乗っている彼の本当の名はレヴィンだと啓は知る。彼はとある特別な血をもつ啓を守る騎士であり、またその啓と敵対するものたちである不死者であった。レヴィンはひたむきなまでの愛と縋るような口調で、啓に迫る。お前の全てが欲しい、見捨てないで欲しいと。
啓の18の誕生日を目前に控えたある日、啓は彼の命を狙う不死者によって、今までの生活を壊される。それは18歳の誕生日にある儀式によって力が覚醒する啓に、それをさせまいとする不死者という存在達の妨害だったのだ。啓を守るべき立場のレヴィンの力を借りながらも、啓は啓の持つ力を信奉する秘密結社の能力者たちと合流し、啓は見事力を覚醒させる。
これだけのファンタジー設定。今日日コバルト文庫でも珍しいべったべたな設定っぷり。すさまじいまでの、「これBLですよね?」というラブの間遠さ。いやラブは間近にあるんですけど、それが性欲まで絡むにはちょっと遠いかなっていう設定ですよね。騎士と王子さまという典型的な形式にしても、あまりにも設定が込みすぎている。そこにロマンがあるといえばそこまでですが、しかしそれ以上の熱意が感じられます。いちいちの名称の付け方とか能力者の二つ名とか、実に色んなところに遊びがある。それが面白い。古典的とまでいえるような設定の話なんだけど、今更BLでそれをやられると妙な新鮮みがあって、面白かったです。コバルト読者の多くはこの道を通ってきたと想うんですけど、こんな真に受けたファンタジーをBLでだされるとこんだけ面食らうんだという面白さ。凄く垢抜けない設定なんだけど、こうやってパッケージングされると妙に新しく見えるからとても不思議なのです。決して貶してないですよ。こういう(あるいみ)正当な話をここで読めるのかという感慨がありました。その面白さに票をいれます。