【小説5位】『星屑シトロン』かわい有美子(小椋ムク )【アリス】

星屑シトロン (クロスノベルス)星屑シトロン (クロスノベルス)
かわい有美子
小椋ムク

笠倉出版社 2010-09-10

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山奥の全寮制男子校、清泉学院高校。近隣の女子校から女の子を呼ぶために、学校の顔となる生徒会長は美形でなければならない…そんな不文律がある。その生徒会長に、弾正は突然任命されることになる。というのは弾正が生徒会長になることを条件に、生徒会副会長を引き受けると答えた男がいるからだ。彼の名前は堂本。美形で無用に挑発的なフェロモンをたれながしている男で、またの名をフェロモン番長という(本当)。その堂本に指名される理由がわからない弾正は、直接堂本にその理由を尋ねる。すると堂本は、弾正の尻に一目惚れしたのだという。そんな理由!?と驚く弾正だが、その告白に答えないまま生徒会としての仕事をこなしていくうちに、徐々にその存在に慣れ親しんでいく。
一風変わった男子校を舞台にした、青春もののBL。毎回その生徒会を舞台にして、学園生活の行事を中心として描かれていきます。キャラクターのかき分けが実に見事で、様々なタイプの登場人物がでてきます。次代の生徒会長、或いは先代の生徒会長の話も伝聞や伝説、或いは可能性として登場してきます。その挟み込みも上手い。
全体として、スキルが高いと想わせる話です。どうやってキャラを表現してその存在感をアピールするか、文章中で非常にさりげなくキャラの側面を織り込んでいく、その確実さが物語の骨格を強化しています。たとえば堂本のその存在感。フェロモンを発している、それがどのように見えるのかというのが、何度も色んな角度から描かれている。他のキャラについてもそうで、会話の中でその存在感をしっかりとさせるものや、行動の思考において信念をもっているものなど、それぞれにしっかりとした描かれ方をしています。その点で物語にしっかりとした強度がうまれています。
また学園の行事に関しても同じ事が言えます。ひとつひとつの行事を厚みを持ってしっかりと描いていくことで、学園生活の様子を重さをもった出来事として読むことができます。そういったまとまりの有る中で、それぞれのことをしっかりを書いてある、小説家としての安定した力量が感じられる作品でした。毎回シリーズが続くについれて、蓄積されていくこの清泉学院という舞台の歴史が、また次の作品では活かされていくに違いないと想います。この作品だけでも楽しめますし、前作をチェックしていてもまた違う面白さが発見できる作品でした。