【小説6位】『溺れる人魚』いつき朔夜(北上れん)【ウサギ】

溺れる人魚 (ディアプラス文庫)溺れる人魚 (ディアプラス文庫)
いつき 朔夜
北上 れん

新書館 2010-08-10

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原因不明の足の痛みで競技から遠ざかっている水泳選手の眞生はアルバイト先のスイミングクラブで鍼灸師の桂と出会う。軽そうな外見に似合わない古式泳法鍼灸師としての誠実な姿に眞生は不思議と惹かれていく。だがそれは桂の仕掛けた恋愛ゲームだった。そうとは知らずに桂の手管に落ちていく眞生。一方、恋愛ゲームを仕掛けたはずの桂も、いつものように進まない関係に戸惑っていた。そしてある日、眞生は桂が他の女性を連れ込んだところに遭遇してしまう。
モラルの崩壊した遊び人と純情なスポーツマンのアンバランスな恋模様。駄目男が純情な子にメロメロになって過去の我が身を呪う的なお話がここ数年好きなのですが、本作の桂はその中でもかなりの駄目男と言えます。特にいわゆる「来る物拒まず」型ではなく、自分から獲物を探してはゲームを仕掛けるという能動型なのがタチが悪い。さらにそのことに自覚があり、自嘲を含んで露悪的に振舞っている部分があるため、自分がゲームとしてではなく眞生に嵌ってしまっていることになかなか気付かず、認められず、状況をこじらせるばかり。遊びの関係に慣れすぎていて、誘惑するのは得意でも自分から感情を打ち明けることができないという歪みっぷり。まあしかし、そんな駄目男が純情な少年にずぶずぶ嵌っていくのが小気味いい。もう一方の純情系九州男児こと眞生も、自分の感情にも相手の感情にも鈍感で気が強く、一度キレたら意固地になってしまうややこしい子。しかしこの焦れったい恋愛が何とも言えず、いいのです。
桂は単なるタラシというだけではなく、自滅願望を持っている部分があるのかな、という感じがします。大事なものを自分の手で握りつぶさずにはいられないというような。まあ単に堪え性が無い、という可能性もありますが。きっとこのカップルは今後も桂が浮気性や束縛性を発揮しては眞生が受け止めていくのでしょう。その関係がいつまで続くのか分かりませんが。ていうか行き過ぎると共依存になりそうな気配。まあそんな感じで全然綺麗な恋愛なんかじゃなくて、壊れそうな関係を繋いでいくところに愛を感じたりするのかも。
硬質な空気感と愚かな登場人物たち、そして受の九州弁がそこはかとなくツボな作品でした。ただちょっと濡れ場のバランスがちょっと悪くてストーリーから浮いて感じられる部分があったのが残念。