『タンゴの男 』岡田屋鉄蔵

タンゴの男 (mellow mellow COMICS)タンゴの男 (mellow mellow COMICS)
岡田屋 鉄蔵

宙出版 2008-10-29


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今回レビューした四作中主人公が最も真剣に同性愛というタブーに向き合っていて、その意味ではBLに抵抗のある読者にも取っ付きやすいものと言えるのかもしれないが……同時に四作中最も絵が濃い。〈男〉というよりは〈漢〉という感じである。アメリカのマッチョな軍人みたいな人たちがたくさん出てくる。なんだか女性キャラまで女装した男みたいに見えてくる。濡れ場で注目するのはたくましい筋肉の躍動である。これはJUNEでもBLでもない、薔薇族の系譜なのだろうか。表紙だけでその「濃さ」は十分伝わるかもしれないが、濡れ場もかなり思い入れ込めて丹念に描かれるので、馴れていない向きには十分に注意されたい。ネット上では妖艶とか男の色気とか高く評価されてるようだけど、僕はちょっとダメだった。
舞台は日本。「タンゴの男」と呼ばれる名ダンサー・アンジーは、踊り手や講師として順風満帆な日々を送りながら、踊りにも女や男との愛にも情熱的になれないことにひそかな鬱屈を抱いていた。しかし彼は、ある日偶然に出会ったヒロという青年に一目惚れする。ヒロは男性には興味がなかったが、アンジーの情熱に触れ、またヒロの孤独を理解して受け容れてもらうことで、戸惑いながらも少しずつアンジーに惹かれていくこととなる。ヒロはコロンビア女性を母に持つ日本人で、両親は実家と折り合いが悪く本国に帰り、ひとり残されたヒロは一族の中で孤立し、周囲からも冷たくされていた。祖父は唯一の味方だったものの、それもあくまで日本人として生きようとするヒロを認めていただけであった。その祖父もまた亡くなり、それをきっかけに親族と再び対立し、そのゴタゴタの中で恋人が浮気していたことも発覚するなど、思いがけないことの連続に、ヒロは深く傷ついてしまう。
そんな中出会ったアンジーは、ヒロをそのままで受け容れてくれた初めての存在であった。いわばヒロは、アンジーの中に自らの母を見出したといえる。それを恋人にしてしまうのはストレートすぎてどうなのかという問題はさておき、今まで誰にも言えなかった自分の心の弱さを総てさらけ出すヒロは、時に子どものように可愛いものとして読者に映るだろう。ここでの性行為は単に肉体的快楽である以上に、ヒロがアンジーに全存在を預けることの象徴でもあるのだろう。ヒロの中にわずかに残っていた、そうすることへの最後のためらいを解き放つものとして、情熱的なタンゴは上手く機能している。
ここまで完成度の高さを見せながら残念なのは、やはり画風の濃さだろう。馴れればむしろ重要な魅力の一部分となる絵であるのは、ネット上の評判を見れば明らかであるが、受け容れられなかった場合濡れ場も丁寧に描かれている分悪夢に近い。傑作ではあるけれども人に読ませる際には十分に注意したい一冊である。