【コミック7位】『猿喰山疑獄事件』遥々アルク(ビーボーイコミックス)【やばい】

猿喰山疑獄事件 (ビーボーイコミックス)猿喰山疑獄事件 (ビーボーイコミックス)

リブレ出版 2009-07-10
遥々アルク

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山の下のお屋敷に心を凍らせた王様が住んでいた。そこに庭師がやってきた。魅力的な目をした庭師に、王様は恋をする。だが庭師には多くの秘密があった。
二転三転するストーリーとプロットは見事。複雑な展開とネームの多さにも関わらず読まされてしまうのは、ひとえにストーリー展開の妙によるものといえる。特に最後を安易なハッピーエンドに落とさず、それでいて僅かな救いを持たせているのが絶妙で、これが無ければありがちなBLで終わっていた可能性が高い。孤独な二人は、恋をしても少しも幸せにならない。だからこそ、最後の僅かな救いが輝いて見える。また、「王様」「庭師」「詐欺師」という呼称を多用し、現代的なアイテムを排することで、巧妙にリアルな要素と寓話的要素のバランスが取られている。
だが、ストーリー以外がとにかく微妙。まず独特の癖がある絵。全体的に表情が乏しく、魅力的なはずの顔が魅力的に見えないのが残念。特に目の表情が乏しく、常に焦点がズレれているような感じで読み手を不安にさせる。構図もちょっとワンパターン、濡れ場も色気が無い。そして語りすぎ。物語において語られずに残る余白というものが殆ど無いのではないかというくらいに語る。モノローグも台詞も説明的で、必要以上に長い。例えば主人公の庭師の一番の魅力であるはずの目さえも絵ではなく「魅力的な目」「ひとたらしの目」というモノローグで語られてしまう。「好きだ」という台詞と「恋に落ちた」というモノローグだけで恋が語られてしまう。だが、それらのモノローグも台詞も、大量のテキストに押し流されてしまい、殆ど印象に残らない。印象に残らないままにストーリーだけが展開して行き、読者の実感は取り残されて行く。シーンの意味も、場合によってはそのコマに書き込まれたモノローグの意味さえ、説明に頼らなければ拾えないというのは、さすがに漫画としてどうかと思う。
絵のぎこちなさも、モノローグによる語りも、この作品に限っては物語との距離感を際立たせ、プラスに働いている面はある。だがやはり、漫画としての表現がぎこちなく、魅力が無いのは致命的。


ストーリーは確かに練られているものの、他の部分が残念すぎる、というのが読んで一番の印象。絵もモノローグもとにかくぎこちなくて、あの作家さんならもっと上手く描く!とかもっと印象的なモノローグが付けられるはず!とか気になり始めたら止まらない。一冊で綺麗にまとまっていることでだいぶ得をしている作品ではないかな、とも思う。「漫画」としての魅力が無いのが致命的かどうかは意見が分かれると思うけれど、個人的にはやっぱり駄目だと思う。