【小説5位】『三希堂奇談』佐倉朱里・小路龍流（絵）（リンクスロマンス）【アリス】
| 三希堂奇譚 (リンクスロマンス) | |
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〈魔〉の一文字で呼び表される非科学的な根拠を持つ存在が、情容赦ない科学の光にあぶり出された今日にあって、なお〈魔都〉のふたつ名を冠せられる都市、柴林。
時代は近未来。そんでもって中華ファンタジー。
骨董品を扱う〈三希堂〉の主は美貌の麗人・翡翠。美しいその顔に目隠しをしてお客様を迎える。その瞳には秘密がある、邪眼なのだ。しかしどんな相手だってまなざし一つで動かせた彼にはひとつ悩みがある。愛しい相手・輝耀には効かないのだ。彼は「君の魔法にかかっているからもうこれ以上は無理なんだよ」と優しくいう。
翡翠は三年前のある夜の記憶がない。気付いたら輝耀に保護をされていた。輝耀がいうには、翡翠は火事に遭ったのだという。そして今までの保護者は死んでしまったから、彼が代わりになると。
ある日店からの帰り道、翡翠は誘拐される。三年前、保護者だった陳大人を殺したのは翡翠だというのだ。邪眼をつかい翡翠が殺したという。翡翠は陳大人のもとで男娼をしていたのだ。
その三年前の惨劇や輝耀の秘密、それらが絡んだ連作となっている。
現実の地続きとしての裏社会設定にファンタジーをちょっと加味して、かっちりとした世界観と文章で品の良い作品でした。邪眼をつかってひとの心を縛り付けようとしてしまう気持ちを、互いの会話のなかで氷解させていくなど、心情の機微もポイント。本当に好きな相手には「好きだ」っていうんだという台詞や、嘘はでも貴方がそう言うのなら信じるから嘘をつかないでという台詞。派手さはないものの、じっくりと心を動かす互いの響き合いが良かったです。私がいて貴方が居て、互いに想うことにより、少しでも良い方に共に歩もうとする意思が感じられました。
この作者さんは『月と茉莉花』という作品を書いていた人で。しっとりとした質感としっかりとした心情描写、テンポの急ぎすぎない展開など、力のある作家さん。ファンタジーを絡めた異世界の風味もよいアクセントとなっています。今後の活躍を期待して五位。
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