残酷アリスの憂鬱日記

アリスは耐熱硝子でできたティーサーバーに熱湯をぶち込むと、溜息をついた。今読んだ文字が頭をよぎる。

『サミア』 『タイトロープダンサー』 『相思喪曖』 『交渉人は振り返る』 『唇にキス 舌の先の愛』『COLD FEVER』『夏の子供』『オールトの雲』『闇の花』『愛しているにもほどがある』

  • 再版が多すぎる

そもそも月に何冊小説が出ているのか、概算してみる。

ホワイトハートX文庫  2
B-Prince文庫  4
ルビー文庫  4
Dear+文庫  2
プラチナ文庫  4
ルチル文庫  6
ラヴァーズ文庫  3
Chara文庫  4
シャレード文庫  4
花丸文庫  6
GUSH文庫  4
Be-Boy ノベルス  5
SHY Novels  3
ショコラ・ショコラハイパー  4
cross novels  2
LYNXS novels  4

うろ覚えの記憶を頼りにつらつらとそこまで上げてみる。ぱっと思い出したレーベルと新刊として出る大体の数はこれだけだ。月に70冊ぐらいは「新刊」が並んでいる。うち文庫落ちをさせているのはB-Prince、ルチル、花丸、のだいたい三つ。冊数にして7冊程度だろうか。アリスは毎月律儀に10冊は修行僧よろしく買い込んでくるのだが、これでも一割ちょいなのだ。やってられない。
しかし「このBLがやばい!2010年度版」の小説ランキングに入った作品のうち、『サミア』『COLOD FAVOR』『夏の子ども』は再版本なのだ。割合として如何に狂っているか、このランキングの偏重がよくわかる。しかも『サミア』は平成5年の作品で15年以上前の作品だ。『夏の子供』だって現在飛ぶ鳥をおとす勢いの人気BL作家榎田尤利のデビュー作で2000年の作品ときている。『COLD FEVER』はビブロスの倒産で絶版した本の巻き直しで元は2003年から続く作品だ。
しかしアリスの頭を悩ませるのはこれだけではない。

  • シリーズものが多すぎる

上記の十作品のうち次の作品はシリーズものなのだ。

『タイトロープダンサー』現在6巻ータイトロープダンサーシリーズ
『相思喪曖』現在4巻ー二重螺旋シリーズ
『交渉人は振り返る』現在3巻ー交渉人シリーズ 
『唇にキス 舌の先の愛』全3巻ー愛と混乱のレストランシリーズ
『COLD FEVER』全3巻ーCOLDシリーズ
『夏の子供』上下巻ー魚住君シリーズ
『闇の花』現在3巻

新刊を70冊として、シリーズものがでるとすれば1冊か2冊ぐらい。大概が一冊の読み切りで、シリーズになることすら稀なのだ。それなのに、半数はシリーズもの。それは未だに続いているという「大作」でいかに「定番商品」が顔を覗かせているのがわかるというもの。
シリーズが多いというのはランキングを紹介する書店側にも負担になると、三ヶ月で書店アルバイトをやめたアリスは考ます。大抵の本屋では1巻目などおいてませんし、これを期に入荷しようとしても場所をとる。一冊ずつシリーズ全てを入荷すると、20冊はおくことになってしまう。
それから『相思喪曖』の一巻目である『二重螺旋』は2001年出版でBLとしては随分と古い本である。このように読者としても注文しないと頭から読めない作品ばかりなのだ。

  • 本当に「今年」のBLなのか

再版とシリーズの多さは、BL出版の「今」を評価したとはいいづらいとアリスは想うのです。あまりにも「堅実」なランキングは、本当に「今」売りたい「今」読みたい本なのでしょうか。月に70冊もでるBLを上手く読みこなすのは難しいと、冊数を聞くだけで想像はつきます。ですので、その新刊から良いものをコンシェルジュするのが「この〜がすごい(やばい)!」の仕事なのではないでしょうか。
しかしこのランキングはあまりにも「堅実」を目指した結果、硬直化したものになったように想います。投票システムの問題上そうなるのかもしれませんが、どうにかならないのかと毎年殺意すら覚えるのです。

少し渋くなった紅茶を口に含みながらアリスはまたBL小説を読み始める。みかん箱いっぱいの買い込んだ小説が、彼女をまっている。