【コミック1位】『生日快楽』小野塚カホリ(ジュネットコミックス)【アリス】
生日快楽 (ジュネットコミックス ピアスシリーズ) | |
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父が恋し母が恋しと啼く鳥も、いつしか父が憎し母が憎しと歌い始める。愛されるという自己肯定を親から得られなかった哀しみは、何処へ繋がっていくだろうか。或いは自分の子を持てないという、虚しさは、何処へも繋がっていけない、寂しさは。
主人公は借金がある。そのために身を売った。売ったと言っても身体を売るとかではなく、精子を取られた。自分の子種が何に使われるか解らぬ不安から、主人公は今度こそ金を返そうと、人を襲う。強盗は殴り方が悪くてはあっけなく失敗したものの、金はすぐに手に入った。襲った相手が性悪だったのだ。金はくれてやるといったそいつの、底知れなさに主人公は本能的に警戒する。相手は電車の中で痴漢をしていた。そしてその痴漢された相手は死んだというニュースを聞く。それをネタに主人公はそいつからもう一度金をゆすり、一緒に住み始める。相手はいう人間は優しさや快楽に弱くて信用させて近づいて愛していると言わせて、奈落に落とす。お前もそうしてやると。手始めに「ハッピーバースデー」。主人公の頭には痴漢されていた男の恍惚とした表情が思い出された。
主人公は曲がった鉄砲玉のようなところがある。一本気で正直で、けれど想わぬところで反応を返す。男の方がわかりやすい、露悪的に振る舞ってみせても、「試験管」で生まれた自分に不安をもっている。主人公はビルの八階で彼と過ごす。優しく振る舞ってみせる意地悪な男の寂しさに捕まってしまった。窓ははめ殺しで外へには出られない。
ふたりを狂わせた精子・遺伝子というもの。それは「水より濃い血」の証、確かにかつて誰かに繋がっていた狂気的な実証、どうしても手に入らない渇望の果て。「此処」にいる「自分」を絶対的に肯定するものだと男は思っているのだろう。だから男はどんなことをしても自分の遺伝子上の「父」と「母」を。そして「此処」にいる「自分」を永久的に証明するのが自分の子どもだ。だから男は、自分の存在理由がわからない。
俺には子供を残す能力はない それなのに俺はなんでここにいるんだろう ーーー生も死も司る神はいるのか
主人公の答えは簡単だ
何もかも僕らが決めるんだ 嬉しいとき笑うのも 悲しい時泣くのも
(中略)
あんたと喋るのも あんたを 触るのも
好きだよ
それに男は「負けたよ」という。「愛してるよ」と。ひとを愛することは最大の決定だ。誰に決められたことでもない。それをようやく、男はしてみせる。けれど主人公は男の何だったんだろう、遺伝子的に。それが気がかりだけれど、男はもう決めたんだろう。
愛することはこうも生に纏わりつくものだったのだと、性はそのまま生に根ざすのだと、ざっくりとした質感の絵と、テンポの良い台詞、どんどんと引き込まれる展開に飲まれていく。やっぱり僕は小野塚カホリがすきだ、改めてそう想った一位です。
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