「このＢＬがやばい！」ランキング　勝手に再集計〜暴君の躍進とあべ美幸の暴落

ランキング内の「有識者」点を分析し、好き勝手推測してみようというこの企画。せっかくなので今年もやってみました。
まずは「やばい」ランキングの基本的な仕組みから。「やばい」ランキングには二種の投票があります。

　（１）BL有識者40人×40点（1位10点〜5位6点）＝1600点　
　（２）一般投票者（有効回答数不明）×6点（1位3点〜3位1点）＝？点

ただし、有識者投票により対象作品を絞り込み、一般投票者の投票は対象作品にのみ加算されます。逆を言えば、有識者が挙げなかった作品は、自動的にランキング対象外となります。
今年有識者によって挙げられた作品は全108作品、うちランキングが公開されたのは同率順位を含む61位までの64作品でした。去年有識者によって挙げられた作品は88作品でしたので、今年は少々票が割れたようです。
ではまず、ベスト10作品の再集計から。

最終順位	有識者順位	有識者→最終	タイトル	総合得点	有識者得点
1	1	-	卒業生	335	96
2	2	-	是-ze-	275	63
3	3	-	野ばら	244	41
4	6	↑2	1円の男	237	37
5	17	↑12	恋する暴君	226	25
6	5	↓1	それなりに真剣なんです	187	38
7	10	↑3	春を抱いていた	185	32
8	15	↑7	千　長夜の契	183	30
9	13	↑6	そして続きがあるのなら	182	31
10	4	↓6	犬は夢見て恋をする	180	40

今年のランキングは上位の得点が飛び抜けていることもあり、1位から3位までは変化無しのランキングとなりました。その中で大きく順位を上げたのが、『恋する暴君』。シリーズ作品が一般投票者の人気を集めるのは去年と似た傾向ですが、長年の人気キャラクター達の恋模様に決着が着いた『是』『春を抱いていた』よりも『暴君』が票を伸ばしたというのは興味深いですね。。
一方で意外な展開を見せたのが『千』『そして続きがあるのなら』と『犬は夢見て恋をする』。どちらかというと玄人受けしそうな二作が一般票を伸ばし、人気シリーズ作品が大きくランクを落とす結果に。読書メーターなどの感想を見ると、『千』『そして続きが〜』は周囲の評判を聞いて読んでみて、新しい萌えに目覚めてしまった人が多かったようです。
有識者票・一般票の比較からみると、人気作品に一般票が集中した去年のランキングとはかなり様変わりしたランキングとなりました。ただし『卒業生』以外。まあ『卒業生』は……圧倒的ですね。ただし、一般得票だけで見ると『卒業生』が239点、2位の『是』が212点ですから、逆転も十分にありえたと思われます。有識者の票がもう少し割れていたら、あるいは。
なお、今年のベスト10作品の有識者点と総合点から求められる有識者点の全体に占める割合は22％前後で、これは去年の値とほぼ同じです。

次に、有識者票のみでのベスト10と最終順位の比較です。

有識者順位	最終順位	有識者→最終	タイトル	有識者得点	総合得点
1	1	−	卒業生	96	335
2	2	−	是-ze-	63	275
3	3	−	野ばら	41	244
4	10	↓4	犬は夢見て恋をする	40	180
5	6	↓1	それなりに真剣なんです	38	187
6	4	↑2	1円の男	37	237
7	−	↓57＋	SUPER LOVERS	36	−
8	16	↓8	枯れない花	34	104
9	15	↓6	美しく燃える森	33	124
10	20	↓10	花は咲くか	32	81
10	7	↑3	春を抱いていた	32	185
10	11	↓1	オオカミの血族	32	172

以下、13位（31点）『おやじな！』『そして続きがあるのなら』、15位（30点）『千　長夜の契』と続きます。
こちらを見ると分かるのは、有識者点の時点では『卒業生』『是』の二作が飛び抜けていて、それ以降はほぼ差がないということ。最終順位での意外な上下動は、一般投票者の票がリアルに反映された結果といえるのかもしれません。
そしてなんと、有識者ランキングは12作品中9作品がシリーズものまたは続きものとという結果に。シリーズ1作目を入れると12作品中10作品。これをシリーズ物が元気だったと見るか、単発作品が振るわなかったと見るかで、だいぶBLシーンの見方が変わりそうです。個人的印象としては後者ですかね……。小粒な佳作はあっても大きな動きはあまりない、というのが最近のBLコミック界隈のような気がしています。以前に比べてレベルが落ちたというのではなく、作品も読者も質・量ともに多様化し、大粒のヒットというのは出にくくなっている傾向にあるように思います。

しかし、なにより驚きなのがあべ美幸の『SUPER LOVERS』。なんと有識者ランキングでは7位から大転落し、ランク外という結果に。集計していて目を疑いました。他の作品の得点を見ていただければ分かるとおり、有識者点36点というのはそれなりの点数です。しかも内訳は1位（10点）が3名、5位（6点）が1名というかなり強力な36点です。他作品の傾向などを見ても、これだけの作品がまったく消えてしまうというのはかなりの異常事態と言っていいでしょう。

『SUPER LOVERS』は、血の繋がりの全くない兄弟・晴と零の物語です。別居中の母にいきなりカナダの山奥に呼び出された晴が母が引き取った野生児・零と出会い、心を通じ合わせるが、直後に記憶を失ってしまいます。しかし5年後、零は二人で交わした約束を忘れず東京へやってきます。誰にでも優しい晴の「特別」になりたい零と彼によって生き方を変えていく晴の二人の感情を丁寧に描いた作品です。
あまりに驚いたので、実際に読んでみましたが、普通に面白かったです。表情豊かでありながら誰に対しても無感動な晴と感情はあるのに顔に出すのに慣れていない零の体格差兄弟はかなり美味しいと思います。展開としてはまだまだBL未満、ニアBLとも言えるレベルです。しかし、それを言えば昨年ベスト10入りした『満員御礼』も恋愛未満の関係でした。巻末の「主なBLコミックス」リストにも載っていますから、BL認定はされている模様。その後続刊も出て、売れ行きも好調、ドラマCD化も決まったのようですから、何か問題があったというわけでもなさそうです。とにかく不思議。

ちなみに、有識者の中に『新装版　同棲愛』そして『志水ゆき全集　LOVE MODE』に票を入れた方が一名ずついらっしゃいました。もちろん、入れられた方なりのお考えがあってとは思いますが、さすがに残念な思いを禁じ得ませんね。確かに旧作にも素晴らしい作品は沢山あります。でも年に一度のランキングなら、気合を入れて「今年の」とっておきを出してきて欲しいと願うのです。ちなみに、アンソロジー作品への投票もありました。擬人化アンソロジーなど光るものが多いのは確かですが、いずれは単行本に収録されるのが普通ですし、雑誌扱いで集計側が切り捨ててもよかったのでは、という気もします。

最後に、一般得票数のみでのランキングです。

一般順位	タイトル	一般得票数
1	卒業生	239
2	是-ze-	212
3	野ばら	203
4	恋する暴君	201
5	1円の男	200
6	春を抱いていた	153
6	千	153
7	それなりに真剣なんです	149
8	オオカミの血族	140
8	犬は夢見て恋をする	140

一般投票者の持ち点は3作品6点、一投票あたりの平均は2点ですから、『是』〜『1円の男』まではかなりの接戦だったことがわかりますね。こちらは10作中7作がシリーズ物です。

以上、得票数から見る「やばい」ランキング。勝手な推測を纏めると、『卒業生』以外に大きく飛び抜けた作品が無かったことで、有識者の票が割れ、全体としては一般人気（≒売上？）が大きく反映されたランキングとなった、というところでしょうか。そのなかで『野ばら』や『千』などの単純な萌えだけでは語れない作品が上位に入ったあたり、かなり玄人好みな読者が増えているといえるのかも。個人的には『暴君』の急上昇っぷりと『SUPER LOVERS』の暴落がよく分かりませんが、今年のBL界を反映したランキングにはなっていると思います。

お茶会は書棚の裏で

「このＢＬがやばい！」ランキング　勝手に再集計〜暴君の躍進とあべ美幸の暴落

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