【コミック1位】『変わる世界』館野とお子【砂糖】

変わる世界 (Dariaコミックス)変わる世界 (Dariaコミックス)
館野 とお子

フロンティアワークス 2010-04-22


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高校生の自分にとって、世界はおそろしく変わり映えのしないものだったけど、いざ大人になってみると、ちょっとずつちょっとずつ変わり続けてここまで来たのだなあと実感するもの。などと、センチメンタルになるのは、この「変わる世界」が、ぐるぐる迷走する高校生たちの恋を描いた連作集だから。
漫画ランキングの2位、3位の2作も連作だが、「変わる世界」の場合は、一話ずつ語り手が変わる。憧れの剣道部主将が、男に抱かれているのを見て衝撃を受ける百瀬君、その当人である皆川先輩、皆川に屈折した愛情を抱く恋人の池田、そして皆川たちの逢瀬を見て幼馴染との関係を問い直す藤吉、生徒たちをを遠巻きに見守りつつも自身も生徒に翻弄されている教師の泉。後から見れば些細に思えることで悩む彼らのぐるぐる感が甘酸っぱくじれったく、でもちょっとずつ成長していく彼らが微笑ましい。
彼らの日常には、決して劇的なイベントはない。間違っても借金のカタにアラブの王子に売り飛ばされたり、媚薬を飲まされて輪姦されたりというようなことはない。きわめて普通の時間を生きているなかで、相手への恋心に気づいたり、自分の成長に気づいたり。そういった「ふっ」とした変化を描ききっているのは、さすが館山とお子というべきだろう。発表する作品数の少ない作家で、非常に待ち遠しい新作だっただけに期待は大きかったが、きちんとそれに応えてくれた。
濡れ場はダリア以外のレーベルと比較しても少ない方でさっぱりしているが、連作集ということで各話にちょこちょこある。それ以上に「付き合ってるけど片思い」が好きな人間にはたまらないシーンが多い。自分から皆川に告白しておいて、皆川に対して邪険な態度をとっている池田。百瀬はそれを腹立たしく思っているし、皆川もそれを辛く思っている。しかし、一方で皆川は自分が寝ている時の池田の優しいまなざしに気づいている。だから、不安を抱きながらも、それを池田にぶつけきれない。皆川と池田のすれ違いの演出が特にすばらしかった。嫌がる皆川の頭をつかんで池田がフェラさせるシーン、最高に色っぽかったです。そして、それを見て自分の皆川先輩への恋心に気づいてしまう百瀬は、最初は一番受っぽかったのに、最終的に一番いい男に育っているのがまた憎い。
とにかく横暴に思えた池田の女々しさに舌打ちしつつ、情けなく思えた皆川の男気に拍手を送りたくなる。館野先生本人があとがきでコメントされているとおり、「受け攻めは関係性で決まる」が体現されているので、「リバも大好き!」な方にぜひじれったくなって欲しい作品。